2011年5月5日木曜日

帝王切開



 妊娠55日目以降のX線検査で、母体の骨盤腔、胎仔の数や異常を評価します。胎仔数が多いと数を誤りやすく、少ないと胎仔が大きくなりやすいようです。骨盤産道の短径と胎仔頭蓋の背腹方向の径を比較して自然分娩が可能かどうかを判断します。ぎりぎりなら通過することも多いのですが、仮に頭が通っても肩で引っかかることもあるため、微妙な例では分娩期の難産基準に基づき異常があれば帝王切開を行うこととなります(下写真は別症例)。
 分娩は3期に分けられます。第1期では落ち着きがなくなり、巣作り行動や食欲低下、頻繁な排便排尿がみられることが多いです。体温が最も低下(37.2℃以下;文献により様々)してから通常6〜12時間で陣痛が始まります。食欲が落ちない犬もいますから、体温の低下が最も客観的に信頼のおける兆候だと言えます。第2期に入ると胎仔が骨盤腔に近づき、腹部が緊張し、陣痛が観察されるようになります。一次破水の後に羊膜囊が出てきて、羊膜に包まれたまま、あるいは膜が破れて(二次破水)娩出されます。第1期との区別は重要で、①目に見える陣痛②一次破水③直腸温の正常化のどれかが見られたら第2期と判断します。陣痛が始まると通常30分以内に出産します。分娩から胎盤娩出までが第3期に相当します。胎盤娩出後は再び第2期となり次の分娩へと続きます。分娩間隔は通常30分〜1時間で、胎仔の数が多い場合、後になるほど長くなるのが普通です。
 難産の基準は、交配から70日以上兆候がない、体温低下後24時間以上、第2期に入って12時間以上陣痛がない、微弱な陣痛が2〜4時間以上、破水後90分以上分娩しない、次の分娩が2〜4時間以上ない、などが上げられます。緑色の膣分泌物が見られた場合は胎盤が剥離しているため、急いで帝王切開を行う必要があります。また胎仔心拍が極端に低い場合は、救命できない可能性もあります。
 この小さなトイ・プードルの母親(2.6kg)は、62日目のX線検査で既に胎仔の頭蓋が骨盤のサイズを大きく上回っていました。第1期に入り次第、連絡を頂きそのまま計画的帝王切開となり、無事♂♀2頭のお母さんとなりました。初産のわりに子育て上手なようです。
参考図書 犬と猫の救急医療 interzoo
     CAP 緑書房