2011年12月1日木曜日

膀胱結石


 最近では膀胱結石用の処方食の質が向上し、特にストルバイト結石に対する食餌療法の効果は大変良好で、食べてさえくれれば内科的な溶解が可能で外科的な対応を必要とする例は少なくなっているようです。なかには食餌療法を数ヶ月も続けているにもかかわらずサイズが大きくなったり(写真:シーズーから摘出したストルバイト結石)、結石の数が増えてきたりするケース、または血尿や頻回尿が酷く症状の改善の見られないケースでは外科的に摘出することを検討する必要があるかもしれません。術後も食餌療法は生涯必要となります。

2011年11月24日木曜日

胃内異物


 鳥の骨を飲み込んだとの主訴で来院されました。腹部レントゲン検査を行ったところ胃内に大きな骨(矢印)を確認し、内視鏡での摘出を行うこととなりました。異物の骨の端っこがツルツルしていて上手く鰐口鉗子で挟むことが出来ず、スネアワイヤーを使って骨の端の方を掴み、なんとかうまいこと食道内に誘導して摘出することが出来ました。骨が大きくて噴門(胃の入り口)のところで引っかかってしまうため少し苦労しました。

 摘出してみると鳥の骨ではなく、豚リブ?今回のような棒状異物には他にアイスの棒や竹串を摘出する機会が多いです。










写真は内視鏡処置直後のシーズーくん。 


2011年11月19日土曜日

骨折治療の評価


 AOでは術後のレントゲン写真を4つの˝A˝で評価するように指導している。
Apposition(近接):骨折部どうしがどの程度近くに寄っているか(くっついているか)?
Alignment(位置関係):ねじれた位置や曲がった位置で固定していないか?
Apparatus(器具):インプラントの使用法、サイズ、強度は適正か?
Activity(活性):生物学的環境は適正か、治癒の所見はあるか?
 この4つの˝A˝を厳しい目で批判的に評価することにより、骨折治療の質の向上につながるとしています。


 6.3kgの柴犬。成長板が閉鎖していないので若い症例です。蝶形骨片を伴う脛骨骨幹部の骨折。少し見にくいですが、側面像にて脛骨遠位にかけて長い亀裂が見られます。Apparatus、インプラントの選択、使用法は適切だったのかなぁ・・・。

2011年11月15日火曜日

脾臓の腫瘍


 脾臓に出来る腫瘍の約2/3が悪性の腫瘍、その2/3が血管肉腫(Double2/3の法則)と言われています。血管肉腫は非常に侵襲性が強く、約80%の症例で肝臓に転移が見られます。多くは無症状で進行し、腫瘍が徐々に大きくなってきてお腹が膨らんでくる(腹囲膨満)、または腫瘍が破裂して腹腔内で大出血し突然虚脱するなどで明らかとなります。超音波所見や肉眼所見での良悪の鑑別は困難なので、通常は脾臓摘出後の病理組織検査で診断を行います。それまでは暫定診断で治療することとなります。

 血管肉腫を伴う犬の50%が播種性血管内凝固症候群(DIC)を併発しているという報告、また血管肉腫を伴う犬の25%が血液凝固異常で死亡という報告もあります。手術前の血液検査でDICのような止血異常が認められるときには輸血が必要となります。血管肉腫はゴールデンやラブラドールなどの大型犬が好発犬種となっているため輸血のための血液を確保するのが困難です。(右写真と上レントゲンは別症例)
 脾臓の血管肉腫における脾臓の摘出単独での治療では、1年生存率が10%未満と報告されています(通常2〜3ヶ月)。脾臓の腫瘍は「逆に言うと1/3は良性」の結節性過形成、血腫、血管腫などです。脾臓の腫瘍=悪性という先入観で治療を諦めないようにして下さい。

2011年10月17日月曜日

超小型犬の中手骨骨折




 1.6kgのチワワの中手骨の骨折です。右写真は術前。このサイズの中手骨の整復は選択できる整復材料が限られるため大変困難です。SYNTHES製の0.6mmのKワイヤーをギリギリ入れることが出来ました。これより細いピンは 知ってる限り無いのでは?他に選択できる手術法も、このサイズだと思いつきません。体重負荷に重要な第Ⅲ趾とⅣ趾が骨折している場合は、通常観血的に整復します。第Ⅱ趾あるいはⅤ趾のみの骨折であれば(変位が少なければ)、非観血的に外副子やキャスト(共にギブス)で固定することもあります。
 成長期のため、1ヶ月ほどで骨癒合が期待できます。ピンニングのみでは1.6kgとはいえ(体重にかかわらず)、とても体重を支えきれませんので必ずギブスを併用します。

 第Ⅲ趾とⅣ趾( ヒトでいう中指と薬指)を必ずギブスの先から出しておきます。左写真は別症例のキャスト。指先まで全て覆ってしまうようなギブスで長期に維持するのは避けるべきです。1週間毎にギブス交換を行います(通常全身麻酔が必要です)。だいたい3週間ほどでギブスが必要なくなり、1ヶ月ほどで抜ピンします。

2011年10月5日水曜日

超小型犬の橈尺骨骨折


 超小型犬の増加に伴い橈骨尺骨の整復手術の割合が骨折手術の中でも多くなっています。橈骨の整復には骨プレート、ピンニングが一般的だと思います。創外固定を行う先生もいます。 超小型犬における橈尺骨骨折では、骨癒合不全が多いことは周知の事実です。1)解剖学的に完全な整復、2)軟部組織の損傷を極力避けたアプローチ(血行の維持)と3)強力な内固定、4)早期の運動機能の回復が癒合不全を避けるポイントとなります (AO/ASIFの4原則)。ピンニング・創外固定ともに手術後の管理が大変なため、この部位の骨折は骨プレートにて固定しています。
 ポメラニアン、2.5ヶ月令、1.8kg。橈尺骨遠位1/3の横骨折。SYNTHES社製ミニDCPプレート2.0(幅5.0mm,厚1.2mm,6穴)を使用し∅1.5mmのスクリュウにて強力に固定しました。術後にギブスを巻く必要もなく、包帯交換も必要ありません。数日間のケージレストによる運動制限は必要ですが、手術の翌日からトイレ程度の短い散歩も可能です。ヒトでは考えられませんが、ほとんどの症例で手術後3日もすれば、ほぼ正常歩行が可能になります。成長期の骨折は約1ヶ月ほどで骨癒合が期待できます。

2011年8月30日火曜日

超小型犬の脛骨骨折


 脛骨の骨折に対しては、各種固定法が選択できます。ピンニング、プレート、創外固定、インターロッキングネイルが選択可能です。
 今回のような幼若な動物の場合、髄内ピンによる固定で十分癒合します。 サイズがあまりに小さいため(0.88kg、チワワ、2.5ヶ月令)、いろいろな手術法を選択する余地がありません。 脛骨近位内側で膝蓋靱帯と内側側副靱帯の間にピンを刺入していきます。少し細めの髄内ピンを使用し、まず脛骨に対して直角に刺入、角度を変えて脛骨遠位に向けて刺入していきます。ここで一度ピンを抜き、脛骨反対側の皮質面を貫通しないように、ピンを反対側に持ち直してから、あらためて脛骨遠位に向けて刺入していきます。皮質内面にあたったときにスムーズに刺入できるように先端は少しカーブをつけておきます。
 ピンニングは固定力が弱いため、ロバートジョーンズ包帯などで術後は2〜3週間ほど外固定を行います。3週間ほどの運動制限で骨癒合が期待できます。癒合が確認できたらなるべく早く外固定を除去してリハビリを開始し、抜ピンします。

2011年7月19日火曜日

ワクチン接種後アレルギー反応


 実際どれくらいの頻度でワクチン接種後のアレルギー反応は発生しているのだろう?残念ながら日本での正式な報告はありません。イギリスにおいて1995〜1999年に行われた疫学調査においては、10,000回のワクチン接種につきアナフィラキシーの発生が0.018回、過敏反応(具体的な症状は不明)が0.028回、蕁麻疹が0.007回と報告されています(Gaskell,R.M.,et al.(2002))。またアメリカの疫学調査(1,226,159頭)では、10,000頭につき、アレルギー反応(具体的な症状は不明)が12.1頭、アナフィラキシーが0.65頭、蕁麻疹が0.26頭となっています(Moore,G.E. et al.(2005))。

 ワクチン接種後のアレルギー反応は、呼吸器・循環器症状(虚脱、チアノーゼ、低血圧、低体温、呼吸困難、呼吸速迫など)、皮膚症状(顔面の腫脹、浮腫、痒み、紅斑、蕁麻疹など)および消化器症状(嘔吐、下痢など)に分類することが出来ます。また症状が発現するまでの時間として、1つは接種後数分から1時間以内に発現する即時型反応、もう1つが接種後数時間から数十時間で発現する非即時型反応の2つの発現様式が見られます。このなかで呼吸器・循環器症状は即時型反応によるものであり、いわゆるアナフィラキシーによるものと考えられます。 接種から1時間は死に至る可能性のあるアナフィラキシーショックが発現する可能性があるため、注意深く観察する必要があります。
 大森ら(JSAVA.No46,(2006))はワクチン接種後24時間以内にアレルギー反応と考えられる症状を呈した犬85頭の解析を行っていますが、なかでもアレルギーを起こしやすい犬種としてミニチュア・ダックス(31/85頭)を上げています。けれども接種した全ミニチュア・ダックスの総数(母集団)が不明のため、現在の日本のダックス人気から考えると一概に好発犬種かどうかは確定できないとしています。
 これまで不明な点が多かったワクチン中の原因アレルゲン成分が明らかになってきました。製造段階で使用される牛胎仔血清、安定剤としてワクチンに含まれているゼラチンおよびカゼインに対して反応しているようです。現在市販されている犬用ワクチンには牛胎仔血清中のタンパク質の成分の1つであるBSAというものが大量に含まれているそうです(Ohmori,K. et al.(2005))。ヒト用ワクチンではWHOよって基準値が設けられいて、含有する量を少なくしているそうですが、犬用ワクチンにはこの基準値を大きく上回るBSAが含有されているそうです。
 ヒトではゼラチンを含まない低アレルゲン化ワクチンなるものが製造されているそうです。なぜ犬用低アレルゲン化ワクチンが出来ないのでしょうか?

2011年7月7日木曜日

乳腺腫瘍


 乳腺腫瘍は、犬に発生する腫瘍の中で、皮膚腫瘍についで2番目に多く、雌では全腫瘍の中で52%と最も多いとされています。小動物臨床で最も手術を行う機会が多い腫瘍の1つです。発生年齢は10歳前後で、約50%が悪性、そのうち50%が転位しやすい(fifty-fifty rule)とされています。だいぶ古い報告ではありますが、初回発情前に避妊手術を終えていると乳腺腫瘍発生率は0.5%、2回目までで8%、それ以降は26%と報告されています。出来るだけ早期に避妊手術を行うことは、乳腺腫瘍の発生予防としての効果は高いと思われます。


上写真はビーグル、下写真はラブラドールの症例です。


2011年6月29日水曜日

虹彩囊胞(Uveal Cysts)


 12歳の黒ラブです。前眼房内に遊離した複数の黒っぽいマスが6時の位置に観察されます。眼脂や結膜に充血はなく、視力に異常はありません。本症は虹彩あるいは毛様体から発生し、中年から老年の犬によく見られます。 ゴールデン・レトリバー、グレート・デン、ボストン・テリアが好発犬種とされています。囊胞が角膜内皮に接触し角膜浮腫を起こしたり、瞳孔を塞いでしまい視覚に問題が起こったり、虹彩を前方に変位し線維柱帯網を閉塞してしまうほど囊胞の数が多く、将来的に緑内障を引き起こしそうな場合を除き、通常は無処置で除去・吸引するような手術を行うことはありません。

2011年6月16日木曜日

難治性角膜潰瘍


 犬の角膜潰瘍はほとんどのケースで外傷が関係しています。なりやすい素因として睫毛の異常やドライアイ、眼瞼が上手く閉じられない兎眼(眼の大きい短頭種にみられます)があります。角膜の上皮は再生が大変早く、普通は1週間以内に完全に修復されます。異所性睫毛など基礎となる外傷の原因が継続して起こっている場合や感染が残っている場合には治療して1週間経過しても治らない場合があります。また ボクサー潰瘍や再発性潰瘍、難治性潰瘍などと言われる基底膜の問題が存在している場合もあります。柴犬、プードル、コーギー、ゴールデン・レトリバーなどが好発犬種と言われています。キャバリアやチワワでも経験しています。
 写真はチワワでした。治療を開始して2週間経過しても最初の状態から比べると傷は縮小はしていましたが、点状に残っていました。血管新生もなく角膜の浮腫も見られず、治癒過程が終了してしまっているようでした。点眼によるこれ以上の改善は困難と判断し、全身麻酔下にて滅菌綿棒でデブリードを行いました。すると角膜上皮がベローンと剥がれていき、思った以上に大きな傷になりました(フローレスにて染色しています)。
 マイジェクターに少し細工をし、角膜格子状切開を行い、第3眼瞼フラップにて眼球を保護しました。1週間後の再検査時にフラップを除去し、完全に治癒しているのを確認しました。この手技は猫では禁忌となります。

2011年6月7日火曜日

獣医皮膚科認定医とニキビダニ3種類


 2010年7月に行われた日本獣医皮膚科学会にて、日本で初の獣医皮膚科認定医試験が実施され、9名が合格しました。そのうちの1人に当院の満田獣医師が認定医として合格しました。

 写真は犬毛包虫(ニキビダニ)症の原因となるDemodex corneiです。Demodex corneiは最近になって明らかにされたダニで、毛包および脂腺内に寄生するDemodex canisよりも小型で体長が短く、皮膚の表皮に寄生しています。



 Demodex injaiと呼ばれる体長の長いタイプも見つかっています(右写真上)。Demodex canisと同じく毛包や脂腺に寄生しています。 右写真下が一般的なDemodex canisです。明らかに体長が長いのが分かると思います。犬毛包虫に3種類もいること、ご存じでした?
 ニキビダニは主に垢や皮脂を摂食しており、宿主から離れると生存することは出来ません。

2011年5月5日木曜日

帝王切開



 妊娠55日目以降のX線検査で、母体の骨盤腔、胎仔の数や異常を評価します。胎仔数が多いと数を誤りやすく、少ないと胎仔が大きくなりやすいようです。骨盤産道の短径と胎仔頭蓋の背腹方向の径を比較して自然分娩が可能かどうかを判断します。ぎりぎりなら通過することも多いのですが、仮に頭が通っても肩で引っかかることもあるため、微妙な例では分娩期の難産基準に基づき異常があれば帝王切開を行うこととなります(下写真は別症例)。
 分娩は3期に分けられます。第1期では落ち着きがなくなり、巣作り行動や食欲低下、頻繁な排便排尿がみられることが多いです。体温が最も低下(37.2℃以下;文献により様々)してから通常6〜12時間で陣痛が始まります。食欲が落ちない犬もいますから、体温の低下が最も客観的に信頼のおける兆候だと言えます。第2期に入ると胎仔が骨盤腔に近づき、腹部が緊張し、陣痛が観察されるようになります。一次破水の後に羊膜囊が出てきて、羊膜に包まれたまま、あるいは膜が破れて(二次破水)娩出されます。第1期との区別は重要で、①目に見える陣痛②一次破水③直腸温の正常化のどれかが見られたら第2期と判断します。陣痛が始まると通常30分以内に出産します。分娩から胎盤娩出までが第3期に相当します。胎盤娩出後は再び第2期となり次の分娩へと続きます。分娩間隔は通常30分〜1時間で、胎仔の数が多い場合、後になるほど長くなるのが普通です。
 難産の基準は、交配から70日以上兆候がない、体温低下後24時間以上、第2期に入って12時間以上陣痛がない、微弱な陣痛が2〜4時間以上、破水後90分以上分娩しない、次の分娩が2〜4時間以上ない、などが上げられます。緑色の膣分泌物が見られた場合は胎盤が剥離しているため、急いで帝王切開を行う必要があります。また胎仔心拍が極端に低い場合は、救命できない可能性もあります。
 この小さなトイ・プードルの母親(2.6kg)は、62日目のX線検査で既に胎仔の頭蓋が骨盤のサイズを大きく上回っていました。第1期に入り次第、連絡を頂きそのまま計画的帝王切開となり、無事♂♀2頭のお母さんとなりました。初産のわりに子育て上手なようです。
参考図書 犬と猫の救急医療 interzoo
     CAP 緑書房

2011年4月7日木曜日

急に出来物が・・・


 「急に膨らんできました。」と飼主様。触ってみると硬い。骨だろうか?膨らんでいる場所を考えると上顎臼歯の根尖周囲病巣による外歯瘻で破裂する場所。歯を診てみると歯肉炎もなく、中程度に歯石が付着している程度でした。とりあえず腫瘍なのか炎症なのかの鑑別のため針を刺して見ることにしました。結果は炎症細胞のみ。原因は歯の可能性が高いであろうことを説明し、全身麻酔下にてチェックすることになりました。歯石を除去してみるとやはり平板破折。露髄していました。レントゲンを確認すると黒矢印のところが黒く抜けているのが分かります。結果は平板破折による根尖周囲病巣でした。
 以前からショップなどで売られている固い蹄を与えていたそうです。知らない飼主様も多いかと思いますが、犬の歯は硬い物を噛む構造にはなっていません。ハサミのような構造になっており、肉を引きちぎるのに適した構造になっています。歯石予防のデンタルケアのつもりで与えていたり、留守中の暇つぶしのために長持ちするからと与えていたりするケースが多いようですが、気をつけないといけませんね。

2011年4月3日日曜日

藤沢市の猫の不妊・去勢手術助成金制度


 野良猫、捨て猫等による不用意な妊娠、出産は不幸な猫ちゃんを増やす結果となります。 不妊・去勢手術を普及することにより、 これら猫ちゃんによる被害を防止するために、その費用の一部が助成されます。*1年度1世帯につき1匹までとなっています。
対象者
 藤沢市内に在住の方で、市税の滞納がないこと
 猫の飼い主、飼い主のいない猫を手術後飼養管理する者
補助金額
 オス 2000円 メス 3000円
手続きのながれ
  1. 「猫不妊・去勢手術補助金交付申請書」を保健所生活衛生課に提出します。
  2. 審査後、「補助金交付決定通知書」、「補助金交付決定通知書(写し)」及び「補助金請求書及び報告書」が申請者に郵送されます。
  3. 「 補助金交付決定通知書(写し)」と「委任状(必要事項の記入押印)」を 藤沢市獣医師会に所属する開業動物病院に提出します。
  4. 決定日より1ヶ月以内に手術を行います(予約が必要になります)。

申請書は保健所生活衛生課、藤沢市獣医師会に所属する開業動物病院でもらうか、または藤沢市役所ホームページ電子申請・申請書ダウンロードのページからダウンロードすることが出来ます。

2011年2月25日金曜日

股関節脱臼(腹尾側脱臼)


 股関節脱臼のほとんどは頭背側に脱臼します。腹尾側脱臼はかなり珍しく教科書には1.5〜3.2%と報告されています。非観血的な整復方法も処置後の術後管理も、また手術の方法も頭背側脱臼とは違うテクニックが必要となります。腹尾側脱臼の非観血的整復を試みる場合、頭背側脱臼と同じ操作を行うと骨や軟部組織を損傷する可能性があります。
 股関節脱臼はほとんどのケースで手術せずに整復できると思います。もともと股関節に緩みがあったり(亜脱臼)、股関節形成不全やレッグペルテスなどに罹患していない正常な股関節の場合のみです。また脱臼してから時間が経過(4〜5日以上)した症例は、筋肉の拘縮や寛骨臼内に軟部組織(脂肪や関節包、血腫、結合織)が入り込むことにより整復困難となります。過去に報告されている成功率は47〜65%となっていますが、この報告は低すぎる気がします。非観血的に整復を試みた後、もしうまくいかなかった場合でも、その後に行う観血的整復の成功率に影響することはありません。


 通常2週間のテーピングによる固定と入院による運動制限(ケージレスト)が必要となります。腹尾側脱臼の場合は、後肢が開いてしまう外転を防ぐような固定をする必要があります。股関節の整復状態を2週間維持することができれば、その後の経過は非常にいいと思います。

2011年2月18日金曜日

猫の形質細胞性(プラズマ細胞性)足皮膚炎


 猫で希に見られる肉球の形質細胞性炎症性疾患で、正確な病因は不明ですが、高ガンマグロブリン血症、形質細胞の著しい組織浸潤とステロイド治療に高い反応性を示すことから、免疫介在性疾患であると考えられています。通常ステロイドの全身投与が有効ですが、代わりに免疫調節作用のあるドキシサイクリンの経口投与が有効なこともあります。改善するのに1〜2ヶ月はかかると思います。猫への投薬には食道内に薬が停滞しないように注意する必要があります。


 左写真は、別症例になります。明らかに正常なパットに比べ腫れているように見えます。触ると張りがなくグニャグニャです。まだパットが破れていない状態と思われます。

2011年2月17日木曜日

Color Dilution Alopecia(カラーミュータント脱毛症)


 メラニン分布異常および毛の形成異常に関連する希釈色を示す毛の毛包異形成と教科書には説明されています。常染色体劣性遺伝が示唆されていて、ブルー(青灰色)やフォーン(薄茶色)、要するに薄い曖昧な毛色の犬種に見られます。最近は珍しい毛色の犬に人気があり、次々と販売されていますから、今後珍しい病気ではなくなるかもしれません。
 本症例はチワワですが、ヨーキー、ダックス、イタリアングレーハウンドなどにも見られます。出生時には正常に見えますが、6ヶ月令から2歳令までの間に体幹背側部の脱毛が始まり、部分的または完全な脱毛に進行しますが、注目すべきは、上写真の子のように茶色の毛の部分は全く正常で影響を受けませんが、グレーの毛の領域のみ薄毛になっています。
 病変部の毛の形態学検査(抜いた毛の顕微鏡検査)で無数の大型メラニン凝集が見られることにより診断されます。
 脱毛の進行を阻止したり、発毛を促進するのに有効な治療法は知られていません。でも発毛しないわけではなく、発毛しても毛の強度が弱いために直ぐにちぎれてしまうと考えて下さい。日常のスキンケアに注意をしてもらう以外ありませんが、美容上の問題だけで、生活の質には全く影響しません。

2011年2月16日水曜日

耳血腫


 柔道やレスリングの選手の耳が変形しているのを見たことがあると思います。餃子耳とかカリフラワーイヤーと言われています。耳血腫は耳の軟骨板内に血液が貯留した状態で、通常耳介の内側、耳の穴がある面にのみ貯留します。よく耳の軟骨と皮膚の間に発生すると言われていますが、正しくは軟骨板内です。原因は必ずしも明らかにされてはいませんが、ヒトでは柔道の寝技やボクシングでの耳への外傷から起こることが多いようです。犬猫では外耳炎による掻痒・疼痛・不快感から頭を振ったり、耳を掻いたりすることで発症することが多いように感じられますが、併発する耳の疾患が全く見られず、何が原因だったか全く分からない症例も多く経験します。
 ステロイドやインターフェロンを併用した注射器による吸引が試みられていますが、再発することが多く、また耳介の変形が避けられません。そのため多くの外科的手技が報告されていますが、いずれも最終的な目標は、ただ血がたまらないようにするだけでなく、再発しないように、且つ耳がいびつな形に変形するのを極力避け自然な外観を維持することが治療を行う上で考えなければならない重要なことです。処置後は2〜3週間程度の間、エリザベスカラーをつけて耳介の更なる外傷を防ぎ、上皮組織と軟骨組織が癒合するまで持続的に排液を促し、瘢痕を減らして変形を防ぐ目的で頭部に軽度な圧迫を加えながらバンデージで適切に固定する必要があります。しかし猫や柴犬のような立ち耳の犬種のバンデージを維持することは簡単ではありません(下写真は猫の症例)。


2011年2月15日火曜日

犬の義眼

 コッカー・スパニエルや柴犬などで遺伝的に発病頻度の高いとされる緑内障に対する究極の治療法です。犬の義眼は、ヒトで行われている眼の絵が描かれたアクリルプラスチックなどを萎縮した眼球の上に被せる、または欠損している場合には半球状のものを眼窩に入れるといった方法と全く異なり、眼の強膜(白眼の部分)を切開し中身(水晶体や硝子体、ぶどう膜など)を取り出し、黒いシリコンボールを眼球内に挿入する、いわゆる強膜内シリコンインプラント義眼という方法が行われています。緑内障の末期で視力の消失した牛眼といわれる、眼内圧が上昇することにより眼が大きくなった状態が適応となります。健常な対側眼に合わせたサイズのシリコンボールを眼内に挿入し、数ヶ月かけて徐々にシリコンボールのサイズにまで牛眼で大きくなった眼が小さくなっていきます。その他の選択肢の1つである眼球摘出と違い、外観上もほとんど違和感なく、一見義眼が入っているようには見えません。
 ヒトで眼圧が上昇すると眼の痛みや頭痛、吐き気が報告されています。牛眼を呈する犬では慢性的な高眼圧が続いているため、ヒトのような激しい全身症状が見られないことが多いようです。上写真の子は術前、元気も食欲もあり、眼痛を思わせる症状は見られませんでしたが、飼い主様曰く、「昔していた遊びをしばらくしていませんでしたが、手術後にまたやり出すようになりました。」と仰っていることから、緑内障による痛みが少なからずあったのではと思われます。
 遺伝性の原発性緑内障は、両眼を冒す病気です。視力を失った緑内障眼に高価な眼圧降下剤を継続して続けるより、手術をして早期に痛みから解放してやり、反対側の視力の残っている眼を緑内障へと進行させるのを遅らせるための予防に重点を置く、というのも緑内障治療の選択肢の1つになるのでは?