2011年2月25日金曜日

股関節脱臼(腹尾側脱臼)


 股関節脱臼のほとんどは頭背側に脱臼します。腹尾側脱臼はかなり珍しく教科書には1.5〜3.2%と報告されています。非観血的な整復方法も処置後の術後管理も、また手術の方法も頭背側脱臼とは違うテクニックが必要となります。腹尾側脱臼の非観血的整復を試みる場合、頭背側脱臼と同じ操作を行うと骨や軟部組織を損傷する可能性があります。
 股関節脱臼はほとんどのケースで手術せずに整復できると思います。もともと股関節に緩みがあったり(亜脱臼)、股関節形成不全やレッグペルテスなどに罹患していない正常な股関節の場合のみです。また脱臼してから時間が経過(4〜5日以上)した症例は、筋肉の拘縮や寛骨臼内に軟部組織(脂肪や関節包、血腫、結合織)が入り込むことにより整復困難となります。過去に報告されている成功率は47〜65%となっていますが、この報告は低すぎる気がします。非観血的に整復を試みた後、もしうまくいかなかった場合でも、その後に行う観血的整復の成功率に影響することはありません。


 通常2週間のテーピングによる固定と入院による運動制限(ケージレスト)が必要となります。腹尾側脱臼の場合は、後肢が開いてしまう外転を防ぐような固定をする必要があります。股関節の整復状態を2週間維持することができれば、その後の経過は非常にいいと思います。

2011年2月18日金曜日

猫の形質細胞性(プラズマ細胞性)足皮膚炎


 猫で希に見られる肉球の形質細胞性炎症性疾患で、正確な病因は不明ですが、高ガンマグロブリン血症、形質細胞の著しい組織浸潤とステロイド治療に高い反応性を示すことから、免疫介在性疾患であると考えられています。通常ステロイドの全身投与が有効ですが、代わりに免疫調節作用のあるドキシサイクリンの経口投与が有効なこともあります。改善するのに1〜2ヶ月はかかると思います。猫への投薬には食道内に薬が停滞しないように注意する必要があります。


 左写真は、別症例になります。明らかに正常なパットに比べ腫れているように見えます。触ると張りがなくグニャグニャです。まだパットが破れていない状態と思われます。

2011年2月17日木曜日

Color Dilution Alopecia(カラーミュータント脱毛症)


 メラニン分布異常および毛の形成異常に関連する希釈色を示す毛の毛包異形成と教科書には説明されています。常染色体劣性遺伝が示唆されていて、ブルー(青灰色)やフォーン(薄茶色)、要するに薄い曖昧な毛色の犬種に見られます。最近は珍しい毛色の犬に人気があり、次々と販売されていますから、今後珍しい病気ではなくなるかもしれません。
 本症例はチワワですが、ヨーキー、ダックス、イタリアングレーハウンドなどにも見られます。出生時には正常に見えますが、6ヶ月令から2歳令までの間に体幹背側部の脱毛が始まり、部分的または完全な脱毛に進行しますが、注目すべきは、上写真の子のように茶色の毛の部分は全く正常で影響を受けませんが、グレーの毛の領域のみ薄毛になっています。
 病変部の毛の形態学検査(抜いた毛の顕微鏡検査)で無数の大型メラニン凝集が見られることにより診断されます。
 脱毛の進行を阻止したり、発毛を促進するのに有効な治療法は知られていません。でも発毛しないわけではなく、発毛しても毛の強度が弱いために直ぐにちぎれてしまうと考えて下さい。日常のスキンケアに注意をしてもらう以外ありませんが、美容上の問題だけで、生活の質には全く影響しません。

2011年2月16日水曜日

耳血腫


 柔道やレスリングの選手の耳が変形しているのを見たことがあると思います。餃子耳とかカリフラワーイヤーと言われています。耳血腫は耳の軟骨板内に血液が貯留した状態で、通常耳介の内側、耳の穴がある面にのみ貯留します。よく耳の軟骨と皮膚の間に発生すると言われていますが、正しくは軟骨板内です。原因は必ずしも明らかにされてはいませんが、ヒトでは柔道の寝技やボクシングでの耳への外傷から起こることが多いようです。犬猫では外耳炎による掻痒・疼痛・不快感から頭を振ったり、耳を掻いたりすることで発症することが多いように感じられますが、併発する耳の疾患が全く見られず、何が原因だったか全く分からない症例も多く経験します。
 ステロイドやインターフェロンを併用した注射器による吸引が試みられていますが、再発することが多く、また耳介の変形が避けられません。そのため多くの外科的手技が報告されていますが、いずれも最終的な目標は、ただ血がたまらないようにするだけでなく、再発しないように、且つ耳がいびつな形に変形するのを極力避け自然な外観を維持することが治療を行う上で考えなければならない重要なことです。処置後は2〜3週間程度の間、エリザベスカラーをつけて耳介の更なる外傷を防ぎ、上皮組織と軟骨組織が癒合するまで持続的に排液を促し、瘢痕を減らして変形を防ぐ目的で頭部に軽度な圧迫を加えながらバンデージで適切に固定する必要があります。しかし猫や柴犬のような立ち耳の犬種のバンデージを維持することは簡単ではありません(下写真は猫の症例)。


2011年2月15日火曜日

犬の義眼

 コッカー・スパニエルや柴犬などで遺伝的に発病頻度の高いとされる緑内障に対する究極の治療法です。犬の義眼は、ヒトで行われている眼の絵が描かれたアクリルプラスチックなどを萎縮した眼球の上に被せる、または欠損している場合には半球状のものを眼窩に入れるといった方法と全く異なり、眼の強膜(白眼の部分)を切開し中身(水晶体や硝子体、ぶどう膜など)を取り出し、黒いシリコンボールを眼球内に挿入する、いわゆる強膜内シリコンインプラント義眼という方法が行われています。緑内障の末期で視力の消失した牛眼といわれる、眼内圧が上昇することにより眼が大きくなった状態が適応となります。健常な対側眼に合わせたサイズのシリコンボールを眼内に挿入し、数ヶ月かけて徐々にシリコンボールのサイズにまで牛眼で大きくなった眼が小さくなっていきます。その他の選択肢の1つである眼球摘出と違い、外観上もほとんど違和感なく、一見義眼が入っているようには見えません。
 ヒトで眼圧が上昇すると眼の痛みや頭痛、吐き気が報告されています。牛眼を呈する犬では慢性的な高眼圧が続いているため、ヒトのような激しい全身症状が見られないことが多いようです。上写真の子は術前、元気も食欲もあり、眼痛を思わせる症状は見られませんでしたが、飼い主様曰く、「昔していた遊びをしばらくしていませんでしたが、手術後にまたやり出すようになりました。」と仰っていることから、緑内障による痛みが少なからずあったのではと思われます。
 遺伝性の原発性緑内障は、両眼を冒す病気です。視力を失った緑内障眼に高価な眼圧降下剤を継続して続けるより、手術をして早期に痛みから解放してやり、反対側の視力の残っている眼を緑内障へと進行させるのを遅らせるための予防に重点を置く、というのも緑内障治療の選択肢の1つになるのでは?